第252章 俺も甘えてみようか

「返して」鈴木瑠璃は手を伸ばして取ろうとしたが、手首をしっかりと掴まれて横に引かれた。

小山星河は身を乗り出して彼女を腕の中に囲い込み、ゆっくりとした声で少し笑いを含ませながら言った。「あいつが甘えたら、すぐに心が揺らぐのか?」

瑠璃は少し抵抗したが、手首を握る手はすぐに強く締め付けられた。

二人の距離はどんどん近づき、息が絡み合い、少年の周りに漂う侵略的な気配が押し寄せてきた。

「俺が甘えたらどうなるか、試してみる?ん?」星河は喉仏を鳴らし、首筋のラインがやや緊張して浮き出ていた。

瑠璃は眉を少し上げ、彼の冷淡な態度をまねて言った。「どうぞ、甘えてみて」

星河は「……」と言葉に詰まった。

実を言うと、彼女はまだ若い狼犬が甘える姿を見たことがなく、かなり期待していた。

瑠璃は余裕の表情で彼を見つめ、潤んだ目で彼の沈んだ桃花眼の中をじっと覗き込んだ。

「甘えるんじゃなかったの?待ってるわよ」

しばらくして、星河の表情が緩み、頭を下げて彼女の肩に額を押し付け、全身を彼女の胸に預けた。低く息を吐き、かすれた声で「お姉ちゃん、行かないで〜」と言った。

瑠璃の背筋が凍りつき、暗闇の中で目を見開いた。

河坊やが甘えるなんて、本当に、命取りだった。

彼女がぼうっとしていると、突然体の上の人が震え始め、瑠璃は彼が泣いているのかと思った。

低く沈んだ笑い声が聞こえ、温かい息が感じられるまで、彼女はハッと我に返った。「笑わないで!」

星河は彼女の肩に寄りかかったまま、止まらないほど笑い続け、漆黒の清潔感のある髪が小刻みに揺れていた。

「そんなに面白い?ただ甘えただけじゃない」瑠璃の心に芽生えた感動はすぐに消えた。

「面白いよ」星河はゆっくりと背筋を伸ばし、彼女の後ろの椅子の背もたれに手を置き、目を細めて言った。「ほら、俺がこれだけ犠牲を払ったんだから、もう少し一緒にいてくれない?」

瑠璃は「……」と言葉を失った。

なるほど。ここで待ち伏せしていたわけね。

島井凛音は金縁の眼鏡を外し、襟元に挿し、おとなしく姉が戻ってくるのを待っていた。

「あの、すみません……」見知らぬ声が響いた。

凛音は目を上げ、黒白がはっきりとした大きな目で、目の前のスーツにネクタイ姿の若い男性を好奇心を持って観察した。